家族海峡

「家族海峡」

はじめに

今日は二〇〇一年(平成十三年)十一月三日、文化の日。昨日が誕生日だった末っ子も五十歳になった。
一九二〇年(大正九年)生まれの私自身は、八十一歳を迎えて早や五カ月が経つ。
人生の黄昏期を迎えた今、平穏に過ごせることに感謝しつつも、己の老いを日々自覚せざるを得ない。物忘れのひどくなっていく自分を、なんともすることができないのがもどかしく情けない。まだ頭がしっかりして記憶が薄れていく前に、過ぎ去った日々を思い出すまま記しておこうと思う。歴史となりつつある時代を生きてきた私の人生を、子どもや孫達に書き残し、彼らの記憶の中に少しでも留めたいと筆をとった。所々思い違いをしているかも知れないが、それは長い年月が経っているため仕方のないことで、許して頂きたいと思う。

大工の棟梁の長女として生まれた私は、十歳までは一人娘として親の愛を独占していた。子煩悩な父は幼い私をよく連れて歩いたものだ。弟妹が次々と生まれる頃になると、父の仕事も繁盛していたため、住み込みの職人も増え、大所帯となった。女学校に通う頃には登校前にみんなの朝食の支度をするなど手伝いもさせられたが、学校と家を往復するだけの、世間知らずで生真面目な箱入り娘であった。
元来、目立つ事が嫌いで引っ込み思案な私であったが、結婚した相手がたまたま朝鮮人だったということだけで日韓の狭間で翻弄され、想像もしていなかった波乱万丈の人生を送る事になったのだった。

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<家族海峡 目次>
はじめに

第1章 運命の人
1 出会い
2 結婚
3 朝鮮の地
4 大家族
5 満州旅行
6 妊娠と叔父の召集

第2章 日本の敗戦
7 ソ連侵攻
8 逃避行
9 夫の生い立ち
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